新聞記事を読んで考えたこと
10/20~22の3日間にわたって朝日新聞に掲載された、成年後見制度にまつわる金銭的なトラブルの記事を読みました。
記事では、親族と後見人との間で生じた金銭をめぐる問題や、専門職への報酬、監督人の選任に伴う費用などが取り上げられていました。
成年後見制度は、認知症などによって判断能力が低下した方の財産や権利を守るための大切な制度です。
一方で、実際に制度を利用するなかで、本人や家族が予想していなかった負担や問題に直面することもあるようです。
こうした記事を読むと、成年後見制度そのものに不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、制度に課題があることと、制度そのものが不要であることは別の問題です。
今回は、新聞記事をきっかけに、成年後見制度の役割と、利用する前に知っておきたいことについて考えてみたいと思います。
1.成年後見制度は、誰のための制度なのでしょうか
成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分になった方を法律面から支援し、本人の権利や財産を守るための制度です。
例えば、次のような場面で制度が必要になることがあります。
- 預貯金や不動産などの財産管理が難しくなった
- 介護施設への入所契約などを適切に進める必要がある
- 本人が理解しないまま不利益な契約を結んでしまう心配がある
- 本人の財産が不適切に管理されることを防ぎたい
家族が本人を支えたいと思っていても、家族であるという理由だけで、本人の預貯金を自由に管理したり、あらゆる契約を代わりに結んだりできるわけではありません。
そのため、本人の判断能力や必要な支援の内容によっては、成年後見制度が重要な役割を果たします。
大切なのは、本人の財産を守ることだけではありません。
本人の意思や生活を尊重し、その人らしい暮らしを支えていくことも、制度を考えるうえで欠かせない視点です。
2.制度を利用する前に、目的を整理しておく
新聞記事の一つでは、相続手続きを進めるために成年後見の申立てをしたことをきっかけに、金銭をめぐる問題が生じた経緯が取り上げられていました。
相続に向けた手続き等を進める必要がある場合など、本人の判断能力によっては、成年後見制度の利用を検討しなければならないことがあります。
ただし、制度を利用する前には、少し立ち止まって考えておきたいことがあります。
それは、「何のために制度を利用するのか」という目的を明確にすることです。
そして、次のような点を確認しておきたいところです。
- 本人の判断能力はどの程度なのか
- どのような手続きに支援が必要なのか
- 成年後見制度を利用する必要があるのか
- 制度を利用すると、本人や家族にどのような影響があるのか
- 後見人などへの報酬を含め、どのような費用が発生する可能性があるのか
成年後見制度は、特定の手続きを済ませるためだけの仕組みではありません。
本人の判断能力や支援の必要性によっては、長期間にわたって利用することもあります。
そのため、目の前の手続きだけでなく、その後の財産管理や本人の生活についても考えておくことが大切です。
もちろん、制度の利用が必要な場合に、費用や負担を心配するあまり、必要な支援を受けられなくなってしまっては本末転倒です。
制度を利用する必要性と、利用した場合の影響を両方確認し、適切な方法を検討することが大切なのではないでしょうか。
3.後見人などへの報酬や監督人の費用について
新聞記事では、専門職への報酬や、監督人の選任に伴う費用についても取り上げられていました。
成年後見制度では、本人の親族が後見人などに選任される場合もあれば、弁護士や司法書士などの専門職が選任される場合もあります。
また、本人の財産や支援の状況などによっては、後見人などを監督する人が選任されることもあります。
こうした仕組みには、本人の財産を適切に管理し、不正や不適切な対応を防ぐという重要な意味があります。
一方で、専門職への報酬や監督人への報酬が発生すれば、本人の財産から費用を支払うことになり、家族がその負担を心配することもあるでしょう。
専門職が本人のために業務を行う以上、適切な報酬が必要であることは理解できます。
しかし、本人や家族にとっては、どのような仕組みで報酬が決まり、どの程度の負担が生じる可能性があるのか、分かりにくい面もあります。
成年後見制度の利用を検討するときには、こうした費用についても確認しておきたいところです。
なお、報酬の金額や決まり方は、事案の内容などによって異なります。新聞記事に掲載された金額が、そのまま他の事案にも当てはまるわけではありません。
また、監督人の選任も、単に費用が増えるという側面だけで判断できるものではありません。本人の財産を守るために必要な仕組みであることも、併せて理解しておく必要があります。
4.本人の財産を守ることと、家族の思い
成年後見制度をめぐる問題を考えるとき、もう一つ大切なのが、本人と家族の関係です。
家族は、本人のことをよく理解し、本人のために行動しているつもりでも、財産の管理方法やお金の使い方について、専門職などと意見が食い違うことがあります。
また、家族が本人を支えるために多くの時間や労力を費やしていても、その思いが必ずしも制度の運用に反映されるとは限りません。
一方で、家族だからこそ、本人の財産をめぐる利害関係が生じる場合もあります。
そのため、成年後見制度では、家族の希望だけでなく、本人の意思や利益を尊重しながら、適切な財産管理を行うことが求められます。
ここで忘れてはならないのは、制度が守ろうとしているのは、本人の財産だけではなく、本人自身の権利や生活だということです。
本人にとって何が望ましいのか。
家族の思いをどのように尊重するのか。
財産を守りながら、本人らしい生活をどう支えていくのか。
こうした問題に、簡単な正解があるとは限りません。
だからこそ、制度の仕組みを知り、関係者が必要な情報を共有しながら考えていくことが大切なのだと思います。
5.判断能力が十分にあるうちから、できる備えもあります
成年後見制度について考えるとき、もう一つ知っておきたいのが、将来に備えて利用できる制度です。
その一つに、任意後見制度があります。
任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が低下した場合に備えて、支援を任せる相手や支援内容などを公正証書による契約で定めておく制度です。
将来、自分の財産管理や生活に関する手続きを誰に任せたいのか、どのような支援を受けたいのかを、あらかじめ考えておくことができます。
ただし、任意後見契約を結んだだけで、直ちに任意後見人が本人を代理して活動できるようになるわけではありません。
本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで、任意後見人による支援が始まる仕組みです。
また、任意後見契約を結べば、あらゆる問題を解決できるというわけでもありません。
契約内容や費用、任意後見人に依頼できる事務の範囲などを理解したうえで、利用を検討する必要があります。
そのほかにも、将来に備えて考えておきたいことがあります。
- 自分の財産を誰に、どのように管理してもらいたいか
- 判断能力が低下した場合、どのような支援を受けたいか
- 家族にどのような負担が生じる可能性があるか
- 相続や財産管理について、家族とどこまで話し合っておくか
- 自分の希望を、どのような形で残しておくか
こうしたことを元気なうちから考えておけば、将来、判断能力が低下したときに備える一つのきっかけになります。
自分の希望を家族と共有しておくことも、大切な準備の一つです。
6.成年後見制度の見直しにも注目したい
成年後見制度については、本人の権利を守りながら、必要な支援をより柔軟に受けられるようにすることなどが課題となってきました。
制度を利用する人や家族の立場からは、必要な支援を受けやすくすること、利用に伴う負担を理解しやすくすること、本人の意思をより尊重することなどが重要な視点になるでしょう。
制度の見直しに関する議論や法改正の動きについても、関心を持っておきたいところです。
ただし、制度の見直しについては、改正法が成立したことと、実際に施行されて制度の内容が変わることを区別する必要があります。
成年後見制度の利用を検討している方は、報道だけで判断せず、法務省や裁判所などの公的機関が公表する最新情報を確認することをおすすめします。
7.制度を知ることが、自分や家族を守ることにつながる
今回、成年後見制度にまつわる金銭的なトラブルを報じた新聞記事を読んで、改めて感じたのは、制度を利用する前に、その仕組みを理解しておくことの大切さです。
成年後見制度は、判断能力が低下した方の財産や権利を守るために、重要な役割を果たしています。
一方で、利用する目的や本人の状況によっては、費用や手続き、家族との関係など、事前に考えておきたいこともあります。
制度の課題を知ることは、制度を否定することではありません。
むしろ、制度の役割と課題の両方を理解することが、自分や家族にとって適切な備えを考えることにつながるのではないでしょうか。
将来のことを考えるのは、少し難しく、気が進まないこともあるかもしれません。
それでも、自分の意思を伝えられるうちに、財産管理や生活の支援について考えておくことには、大きな意味があります。
成年後見制度を利用するかどうかにかかわらず、将来、どのような支援を受けたいのか、誰に相談したいのかを考えることから始めてみてはいかがでしょうか。
制度を正しく知り、自分や家族に合った備えを考える。
その積み重ねが、将来の安心につながっていくのだと思います。
成年後見制度や将来の財産管理について相談したいときは
成年後見制度の利用を検討される場合は、本人の判断能力や財産状況、必要な支援の内容などによって、適切な対応が異なります。
家庭裁判所、地域包括支援センター、社会福祉協議会、司法書士、弁護士など、相談内容に応じた窓口に相談することが大切です。
行政書士には、制度の概要についての情報提供や、相談内容の整理、任意後見契約・財産管理等委任契約・遺言書などの作成支援を依頼できます。ただし、対応できる業務には範囲があり、行政書士が成年後見人に選任されるとは限りません。
また、コスモス成年後見サポートセンターや行政書士会でも相談できます。窓口や対応内容は地域によって異なるため、事前にご確認ください。
大切なのは、困ってから一人で抱え込むのではなく、早い段階で制度を知り、必要に応じて適切な相談先につながることです。
※この記事は、行政書士として、新聞報道をきっかけに成年後見制度について考えた一般的な情報提供です。個別の事案に関する法的助言や、制度利用の判断を行うものではありません。制度の利用を検討される場合は、本人の状況に応じて、適切な専門機関や専門家にご相談ください。
