老後の暮らしを、誰に、どのように支えてもらうのか
2026年9月27日に新聞に掲載されていた「任意後見」について取り上げたいと思います。
記事では、任意後見をどのような場合に検討するのか、利用するまでの流れ、任意後見人にどのようなことをお願いできるのか、そして任意後見監督人の報酬などについて、図を使って分かりやすく紹介されていました。
さらに同じ紙面には、老後の暮らしや人生の最終段階について考える記事も掲載されていました。
二つの記事を続けて読んでいると、単に「任意後見という制度を知る」というだけではなく、
「これからの人生を、誰に、どのように支えてもらうのか」
ということを考えることが大切であるとわかります。
そこで今回は、任意後見と法定後見の違い、費用、そして老後の生活を支える仕組みについて、整理してみたいと思います。
任意後見とは
任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が低下した場合に備えて、自分で選んだ人にお願いしたいことを契約しておく制度です。
たとえば、
- 預貯金の管理や解約
- 不動産の管理・処分
- 介護サービスに関する契約
- 医療や施設入所に関する手続き
- その他、契約で定めた法律行為
などについて、将来、自分に代わって手続きをしてもらうことが考えられます。
任意後見契約は公正証書で作成します。
ただし、契約を作っただけで、すぐに任意後見人が本人に代わって仕事を始めるわけではありません。
本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されることで、任意後見契約の効力が生じ、任意後見人による支援が始まります。
流れを簡単にすると、
将来について考える
↓
任意後見人になってほしい人を決める
↓
公正証書で任意後見契約を結ぶ
↓
本人の判断能力が低下する
↓
家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てる
↓
任意後見監督人が選任される
↓
任意後見人による支援が始まる
という流れになります。
つまり任意後見は、
「判断できなくなってから誰かに決めてもらう」のではなく、「自分で決められるうちに、将来のことを決めておく」
という制度だと言えるでしょう。
法定後見とは
では、任意後見の準備をしないまま、本人の判断能力が低下した場合はどうなるのでしょうか。
その場合に利用される制度の一つが法定後見制度です。
現在の法定後見制度には、
- 後見
- 保佐
- 補助
の3つの類型があります。
本人の判断能力の程度に応じて家庭裁判所に申立てを行い、成年後見人、保佐人、補助人などが選任されます。
ここで、現在の成年後見制度を考えるうえで、ぜひ知っておきたい大きな動きがあります。
2026年、成年後見制度の改正法が成立
2026年6月17日、「民法等の一部を改正する法律」が成立し、6月24日に公布されました。
今回の改正では、成年後見制度そのものが大きく見直されます。
現在の「後見」「保佐」「補助」という3つの制度について、後見と保佐を廃止し、補助の制度に一元化することが予定されています。
そして、本人が必要とする支援の範囲に応じて、必要な法律行為について代理権を付与したり、取消しの仕組みを設けたりするなど、本人に必要な範囲で支援する仕組みへと改められることになります。
また、支援の必要性がなくなった場合には、補助に関する審判を取り消すことができる仕組みも設けられます。
つまり、これまでのように本人の判断能力の程度によって「後見・保佐・補助」のどれかに当てはめるという考え方から、
「本人に、今、どのような支援が必要なのか」
ということをより重視する制度へ変わろうとしているのです。
いつから変わるのでしょうか?
この成年後見制度の見直しは、2026年6月24日の公布から2年6か月を超えない範囲内で政令により定める日に施行されます。
そのため、現時点では具体的な施行日はまだ決まっていませんが、遅くとも2028年末ごろまでには施行されることになります。
2026年9月現在は、まだ現在の「後見・保佐・補助」の制度が利用されています。
これから成年後見制度について調べる場合には、「現在の制度」と「これから変わる制度」の両方を知っておく必要がありそうです。
任意後見制度も見直されます
今回の改正は、法定後見だけではありません。
任意後見制度についても、より柔軟に利用できるよう見直しが行われます。
現在は、任意後見人を監督するために任意後見監督人を選任する仕組みが基本となっていますが、改正後は、家庭裁判所が「明らかに任意後見監督人による監督が必要ない」と認める場合には、任意後見監督人を選任しないことができる仕組みが設けられます。
また、法定後見の利用を開始すると任意後見契約が終了するという現在の規定も見直されます。
このように、成年後見制度は今、大きな転換期を迎えています。
任意後見と法定後見は何が違う?
では、現在の制度を前提に、任意後見と法定後見の違いを整理してみます。
| 任意後見 | 法定後見 | |
|---|---|---|
| 準備する時期 | 判断能力が十分なうち | 判断能力が低下した後 |
| 支援する人 | 本人があらかじめ選ぶ | 家庭裁判所が選任 |
| 支援の内容 | 契約で決めておく | 法律や家庭裁判所の審判に基づく |
| 手続き | 公正証書による契約 | 家庭裁判所への申立て |
| 支援開始 | 任意後見監督人の選任後 | 家庭裁判所の審判後 |
| 本人の意思 | あらかじめ自分で決める | 判断能力が低下した後の制度 |
大きな違いは、
「本人が元気なうちに、自分で将来の支援者や内容を決めておくかどうか」
という点にあります。
ただし、これは「任意後見の方が良い」「法定後見の方が良い」という単純な話ではありません。
本人の状況や家族関係、財産の状況、必要となる支援の内容などによって、考えるべきことは変わってきます。
そして、これからは法改正によって法定後見の仕組みそのものも変わっていきます。
だからこそ、制度の名前だけで判断するのではなく、
「自分にはどのような支援が必要なのか」
というところから考えることが大切なのだと思います。
利用するには、どのくらい費用がかかる?
制度を考えるとき、やはり気になるのが費用です。
任意後見も法定後見も、「○万円払えば利用できる」という単純なものではありません。
任意後見の場合
任意後見では、たとえば、
- 任意後見契約を公正証書にするための費用
- 任意後見人への報酬
- 任意後見監督人への報酬
- 家庭裁判所への申立てに伴う費用
- その他の実費
などが考えられます。
任意後見人の報酬については、契約の中で定めることになります。
一方、任意後見監督人が本人の財産から報酬を受け取るには、家庭裁判所の報酬付与の審判が必要で、家庭裁判所が認めた額が支払われます。
新聞の記事にも、任意後見監督人の報酬について、本人の財産額に応じた報酬の目安が紹介されていました。
法定後見の場合
法定後見では、
- 家庭裁判所への申立て費用
- 郵便料などの実費
- 診断書などの費用
- 必要な場合の鑑定費用
- 成年後見人等への報酬
- その他の実費
などが考えられます。
どちらの制度の場合でも、費用については、
「制度を利用するための最初の費用」だけではなく、継続的に発生する費用も考えておく
ことが大切です。
老後の設計
「一人に任せる」のではなく「支えてもらう仕組み」を考える
老後の生活では、財産管理だけを考えればよいわけではありません。
医療、介護、福祉、住まい、日常生活、家族との関係など、さまざまなことが関係してきます。
たとえば、
- お金の管理は誰にお願いするのか
- 介護が必要になったらどうするのか
- 医療について、自分の希望を誰に伝えておくのか
- 施設に入ることになったら、誰に手続きをお願いするのか
- 自宅や不動産をどうするのか
- 遺言は必要なのか
- 自分が亡くなった後の事務をどうするのか
こうした問題を考えていくと、任意後見だけですべてを解決できるわけではないことが分かります。
だからこそ、
「一人の人に全部お願いする」
という考え方だけではなく、
「必要な場面で、必要な人やサービスにつながる仕組みをつくっておく」
という考え方も大切なのではないでしょうか。
任意後見人、家族、医療・介護関係者、福祉サービス、専門家など、それぞれに役割があります。
そして、その中心にいるのは、あくまでも本人です。
「誰に任せるか」の前に、「自分はどう暮らしたいか」
任意後見について調べると、
「誰を任意後見人にしようか」
ということに目が向きます。
もちろん、それは重要なことです。
でも、その前に考えておきたいことがあります。
私は、これからどのように暮らしたいのか。
何ができなくなったら困るのか。
誰に、何をお願いしたいのか。
家族にお願いしたいことは何なのか。
専門家にお願いしたいことは何なのか。
こうしたことを一つずつ考えていく。
その結果として、任意後見が必要になるかもしれません。
あるいは、遺言や財産管理に関する契約、福祉・介護サービスなど、別の制度や支援を組み合わせることが必要になるかもしれません。
大切なのは、最初から「この制度を利用しよう」と決めることではなく、
自分がどのような老後を送りたいのかを考え、そのために必要な仕組みを選んでいくこと
なのではないでしょうか。
おわりに
制度を知ることは、自分の人生を考えること
2026年には成年後見制度そのものを大きく見直す法律が成立ました。
成年後見制度は、これから変わっていきます。
けれども、制度が変わっても、
「自分の人生をどう生きたいのか」
「将来、どのような支援が必要になるのか」
という問いが大切であることは変わらないのではないでしょうか。
老後の備えというと、貯蓄や保険、住まいなどを思い浮かべることが多いかもしれません。
そこにもう一つ、
「自分の意思を、将来どのように支えてもらうか」
という視点を加えてみる。
任意後見や法定後見について知ることは、単に法律上の制度を知ることではなく、これからの自分の人生を考えるきっかけにもなるのだと思います。

